『ハラミ定食 DX ~Streetpiano Collection~「おかわり! 」』(CD+DVD、2020 avex trax)
紅白歌合戦にYouTuberピアニストのハラミちゃんの出場が内定した、と10月22日のスポニチが報じました。プロのピアニストを目指し、音大に進んだものの挫折。いったんは一般企業に就職した異色の経歴も話題です。
ハラミちゃんに罪はないけれど…
会社員時代に過労がたたり体調を崩してしまったハラミちゃん。そこで彼女を救ったのが、ピアノでした。「前前前世」(RADWIMPS)などのヒット曲をカバーしたところ、超絶技巧が話題を呼び、いまでは総再生回数4億回を超えるまでに人気に。めでたく、ピアニストとして国民的音楽番組に出演する運びとなったのです。 ところが、この一報にネット上では賛否両論。ツイッターなどのSNSでは若い世代から応援やお祝いのコメントが寄せられた一方、ニュースサイトなどのコメント欄は否定的な意見が大半を占めていました。“ハラミちゃん本人に罪はないけど、この人選はちょっと違うんじゃないか?”と番組の見識を疑う声の他に、ハラミちゃんの演奏自体が苦手という声も散見されました。
日本のストリートピアノのつまらなさ
いつもニコニコと楽しそうに演奏し、ピアノの魅力を伝えようと一生懸命なハラミちゃんの態度には見習うべき点はあります。ただ、申し訳ないのですが、筆者も彼女の演奏や音には心動かされません。それは、下手だからではなく、むしろ上手でスムーズな風に聞こえてしまうからこそ感じる違和感なのですね。 彼女の演奏からは、音楽のささくれだとか、豊かなムダが、きれいに削り取られてしまっている。音楽全体を味わうことよりも、無難に弾ききったことの努力を称える風潮が生んだ、不幸な曲解。 そんな彼女がストリートピアノブームの頂点にいることを考えると、この味気ない演奏は、はからずも日本の街角ピアノのつまらなさを象徴してしまっているのかもしれません。
世界のストリートピアノを聴いてみると
NHK-BSの人気シリーズ『駅ピアノ』、『空港ピアノ』、『街角ピアノ』で、海外と日本の演奏を見比べると、大きな違いがあることに気づきます。それは、“きちんと”弾きたがる日本と、大雑把な海外。 譜面を持ち込み、さあ練習の成果を披露するぞと意気込む手合は、きまって日本でのこと。弾く人も聞く人も、それぞれ熱心なのだけど、どちらも一方通行で終わってしまいがちです。 その点、海外は、ふらっと立ち寄って、ところどころミスをしながらも、思い思いのテンポや解釈で弾いていく。見ず知らずの人たちを巻き込んで大合唱になるのも、よく見られる光景です。 特に、ロンドンのセントパンクラス駅で、アフリカ系の男性が、ダウン症の女の子とベートベンを連弾するシーンは素晴らしかった。演奏が終わり、駅中に響き渡る音でハイタッチを交わす二人。音楽が社交の一環として機能していることを、うらやましく感じました。